この事例の依頼主
50代 男性
今回の相談者Xさんは、神奈川県在住の3人兄弟の長男でした。10年前に父親を亡くし、その財産をすべて相続した母親が2カ月前に亡くなったそうです。母親は、遺言を残しており、長男であるXさんに「全ての財産を相続させる」と書いてありました。母親は、自宅の土地・建物、預貯金1000万円、株式700万円ほど保有していました。そうしていたところ、三男のYから「遺留分の減殺請求権を行使する。」と言う書面を送付してきました。最初は、相手方の要求を無視していたところ、裁判所に調停の申し立てをされてしまい、裁判所から呼び出しがかかりました。どうしてよいかわからなかったことから、Xさんは当職に相談にやってきました。
今回のケースでは、三男Yから遺留分減殺請求を受けた時点では、既に名義等はすべて長男Xに移してしまった後でした。調停の席では、自宅の土地建物については、長男夫婦が住んでいるから渡すことができないが、母親が残した預貯金の中から遺留分に相当するある程度のお金を渡すことはできるという話をしましたが、二男は長男にすべて任せるという話をしてくれましたが、三男Yは、自宅についても現金化して自分の取り分をよこせと主張し、調停の席でかなり揉めることになってしまいました。そこで、当職は、不動産業者に自宅の土地建物の評価額を出してもらいました。そうすることで、遺産の全体を金銭的に評価し、どの程度の取り分がYに生じるのかを目に見えるようにする必要があると考えたからです。土地・建物合わせて約3000万円の価値がありました。そうすると、母親の遺産は、預貯金1000万円、株式700円、土地・建物で3000万円の合計4700万円の遺産があったということになります。そうすると、三男Yの取り分は、3分の1(法定相続分)の1/2(遺留分)の1/6ということになります。そうすると、4700万円の1/6である780万円くらいが三男Yの取り分ということになります。当職は、Xさんを説得した上で、自宅をキープすることができるようにするためにも、三男Yには、母親が残した預貯金の中から600万円程度支出し、二男には株式を一部売却し、その資金から相応のお金を支払うことで合意をしてはどうかと勧めました。調停委員もその意見に賛同してくれ、最終的には、自宅を守った形で、遺留分相当よりも少ない金額を二男、三男に支出することで解決を図ることができました。
被相続人の遺産の全てを一人の者に『相続させる』という遺言は、一般的によくある遺言の記載の仕方です。特定の親族に、遺産の全部を取得させる理由としては、先祖代々受け継いできた土地のの細分化を防ぐということであったり、または、一族のお墓を守ってもらうことをお願いするためなどがあげられます。今回のケースは、相続の手続きを終えた後に、三男のYから『自己の遺留分を侵害しているから、その侵害している部分を請求する』ということでした。母親の老後の介護の面倒を見ていたのは、長男と長男のお嫁さんでしたから、『母親の面倒は全く見なかったのに、遺留分という権利だけを主張する相続人』ということで、長男の三男に対する嫌悪感情はとても強かった事例でした。本来は、母親の財産なのですから、それを生前に遺言という形でどう処分しようが自由であるはずなのです。しかし、他方で、残された家族の生活保障をするという理由などもあり、民法では遺留分制度を設けているわけです。これによって、被相続人の財産の処分を一定限度制限し、他の相続人の保護を図ることとされていますが、このような財産の自由な処分を制限する遺留分制度については、昨今は不要ではないのか?というような意見もあります。ただ、現状において、遺留分制度が民法で定められている以上、今回の遺留分の減殺請求には、ある一定限度応じなければならないわけです。ただ、応じるにしても、どのように応じるのかについてが大事です。上手い解決方法はいくらでもあるわけですから。