この事例の依頼主
30代 男性
A社は、車両の板金修理や塗装を業とする会社です。従業員を5名ほど雇っていましたが、経営状況が悪化したこともあって人事考課上、成績が悪い従業員2名を解雇することにしました。解雇した後に、そのうちの1人が弁護士を選任して、解雇無効の主張と未払い残業代を請求してきました。A社は相手方が弁護士を付けていたこともあったことから専門家の意見を求めたいということで当職のところに相談に来られました。
話を聞いてみると、解雇事由が弱く解雇権濫用の法理により解雇が無効と評価される可能性が高いので、解決金を支払って合意退職に導くことが望ましいと判断し、その交渉を当職が受任をすることになりました。合意退職をすることについては、双方の意見は一致しましたが、その条件について、先方は給与の1年分に当たる500万円を請求してきました。当然のことながら、会社側としてそのような高額なお金を支払う余裕はないわけですし、労働審判で解雇無効と評価されたとしても、6ヶ月以上になることはないだろうと判断をし、交渉決裂にすることにしました。その1ヶ月後、相手方から労働審判の申立てが東京地方裁判所になされました。会社側としては、(主張としては難しい主張であるということは理解をしていましたが、)整理解雇の要件を満たすという主張をし、会社の経営状況や被解雇者の選定においても人事考課に基づいて適正にしているという主張をし、解雇は有効である旨の主張をしました。会社の経営状況が極めて悪化しており、売り上げも前年度と比べて著しく落ちていること、他の社員と比較して出退勤の成績が悪いこと、お客様からのクレームの回数等も多かったことなどを主張し、被解雇者の選定として適正であることを主張しました。とはいえ、当方の主張が訴訟になった場合に通る可能性というのが高くなかったことから、会社側と協議をして、「150万円までなら解決金として支払う用意がある」ということで事前に数字を会社側からもらっておきました。最初は、「1円も支払うつもりはない。不服ならば労働審判を出してもらっても構わない」という形で強行姿勢を取ったところ、裁判所から訴訟になっても時間と労力を費やすだけだから何とか和解が出来ないかと提案されました。会社からは150万円までの数字をもらっていたので、「100万円までなら代表を説得する用意がある」と言う話をしました。相手方は「最低300万円もらわないと納得ができない」という話を最初はしていましたが、当方の強行姿勢を見て、200万円まで歩み寄りをしてくれました。裁判所から強く200万円での和解を求められましたが、「200万円であるということであれば訴訟に進んで頂いて結構です。次回期日には出席できません」ということを告げたところ、相手方は訴訟に発展すれば弁護費用その他の費用がかさむと思ったのか、150万円まで条件を落としてきました。当初予定していた金額まで条件が落ちたことから、会社側と相談して150万円での和解を受け入れることにしました。
従業員から解雇無効を主張された場合,会社側は手続面を守るだけでなく,労働契約法16条の「解雇権濫用法理」に関して,解雇に合理的な理由があることを主張していく必要があります。事実上、終身雇用制度が確立している日本においては,従業員の解雇の有効・無効は裁判所が厳格にチェックしているというのが実情です。仮に、労働審判や訴訟で解雇が無効となった場合には,解雇から判決までの期間(通常は裁判になれば1年以上かかります。)の賃金を会社側は支払わなければならなくなるので,会社側は常にそのリスクを考えなければなりません。今回のケースでも,仮に労働審判から訴訟に移行し、判決で解雇が無効とされれば500万円ではすまない額となるリスクがありました。そのようなことから考えれば、解雇について和解で150万円の解決金で早期解決ができた今回のケースはA社にとって極めて有利なものであったと思います。