この事例の依頼主
年齢・性別 非公開
【はじめに:「モラハラ」とは?】「モラハラ(モラルハラスメント)」という言葉を耳にする機会が増えましたが、具体的にどのような行為を指すのでしょうか。モラハラとは、殴る・蹴るといった身体的な暴力(DV)とは異なり、言葉や態度によって相手の精神を継続的に傷つけ、人格や尊厳を否定するような行為を指します。具体的には、以下のような行為が例として挙げられます。・人格を否定するような暴言、侮辱、罵倒を繰り返す。・相手の意見や感情を常に無視・軽視する。・生活費を渡さない、過度に倹約を強いるなど経済的に追い詰める(経済的DV)。・友人との交流や外出を極端に制限する、常に監視する。・無視したり、ため息をついたり、見下した態度を取り続ける。・自分の非を認めず、全て相手のせいにする。これらの行為は、目に見える傷を残さないため、外部からは分かりにくく、また被害を受けている本人ですら「自分が悪いのかもしれない」「これくらい普通なのかもしれない」と思い込んでしまうことがあります。しかし、モラハラは被害者の心を深く傷つけ、時にはうつ病などの精神疾患を引き起こす深刻な問題であり、離婚の原因としても認められ得ます。【なぜモラハラでの離婚は難しいと言われるのか? - 立証の壁】モラハラを理由に離婚を進めようとする場合、特に相手が離婚に同意しないケースでは、法的な手続き(離婚調停や離婚訴訟)において「モラハラの存在」と「その程度が婚姻を継続し難いほど重大であること」を証明(立証)する必要があります。しかし、これには大きな困難が伴います。・証拠が残りにくい: 身体的暴力と違い、言葉や態度は形に残りません。・密室で行われることが多い: 家庭内など、第三者のいない場所で行われることが多く、目撃者がいません。・加害者が認めない: モラハラの加害者は、自身の言動を正当化したり、過小評価したり、あるいは完全に否定したりすることが多いです。これらの理由から、被害を客観的に示すことが難しく、「言った言わない」の水掛け論になりやすいのが実情です。【だからこそ重要になる「客観的な証拠」】モラハラの立証が難しいからこそ、意識的に客観的な証拠を集めることが極めて重要になります。具体的には、以下のようなものが証拠となり得ます。・録音: 相手の暴言や侮辱的な発言を録音したもの。最も直接的で有力な証拠の一つです。(※相手に無断での録音も、証拠として否定されることは通常ありません)・メール、LINE、SNS等のメッセージ: 相手からの人格否定や威圧的な内容のメッセージ。送受信日時が記録されている点も重要です。・日記やメモ: いつ、どこで、誰から、何を言われた(された)か、その時の自分の気持ちなどを、具体的かつ継続的に記録したもの。詳細であるほど証拠としての価値が高まります。・心療内科や精神科の診断書: モラハラが原因でうつ病や適応障害などの精神疾患を発症した場合、医師の診断書は精神的苦痛の証明になります。・第三者への相談記録: 信頼できる友人、家族、公的な相談機関(配偶者暴力相談支援センターなど)、カウンセラーなどに相談した記録(メール、相談日時メモなど)も、状況を裏付ける一助となります。これらの証拠を、できるだけ多く、継続的に集めることが、後の話し合いや法的手続きを有利に進める上で鍵となります。
【被害者が「被害」に気づきにくい理由】モラハラの根深い問題の一つは、被害を受けている本人自身が、その状況を「異常だ」「被害を受けている」と認識しにくい点にあります。加害者は、巧みに被害者を操り、「お前が悪い」「お前のために言っている」などと思い込ませることがあります。また、長期間にわたる精神的な攻撃にさらされるうちに、感覚が麻痺し、「これが普通の状態だ」と思い込んでしまうことがあります。そして、社会的に孤立している被害者が「恥ずかしい」「自分が至らないからだ」と感じ、誰にも相談できないケースも少なくありません。このように、被害者は自覚がないまま精神的に追い詰められていくことが多いのです。【「おかしいかも?」と思ったら、まずは第三者への相談を】もし、あなたがパートナーとの関係で「何かおかしい」「辛い」「自分が悪いのだろうか」と感じることがあるなら、それは一人で抱え込むべき問題ではないかもしれません。まずは、信頼できる友人や家族、あるいは専門的な知識を持つ第三者に相談してみることを強くお勧めします。【弁護士に相談するメリット】離婚を考える場合、弁護士にご相談いただくことで、あなたの受けている状況が、法的に離婚原因として認められる程度のモラハラにあたるか、専門的な視点から判断することができます。また、どのような証拠が有効か、どうやって集めればよいか、具体的なアドバイスを提供することができます。その後、離婚を進める場合の相手方との交渉や離婚調停の手続をお任せいただくことも可能です。
モラハラは、あなたの心と人生を蝕む深刻な問題です。もしあなたがパートナーの言動に苦しんでいるなら、それは決してあなたのせいではありません。あなたは尊重され、安心して生活する権利があります。「これはモラハラかもしれない」と感じたら、勇気を出して、信頼できる人や専門機関、そして弁護士に相談してください。問題を整理し、解決への道筋を見つけるお手伝いをします。一人で抱え込まず、まずはその一歩を踏み出しましょう。