この事例の依頼主
20代 女性
相談前の状況
私はA国人です。私は、日本の永住権を持つ外国人Bと結婚し、「永住者の配偶者等」という在留資格で、日本で暮らしていましたが、折り合いが悪くなり、離婚しました。永住者であるBと離婚した以上、私はこのままでは在留資格の更新ができず、日本にいられなくなると思い、悪いこととは知りながら、日本人男性Cと偽装結婚してしまいました。ちょうどそのころ、私は、既婚の日本人男性Dと交際しており、Dの子を妊娠したことがわかりました。しかし、形式的には、私はCと婚姻関係にあるため、このままでは子はCの嫡出子として推定されることになります。Dは近いうちに奥さんと離婚し、私と再婚する予定でしたので、私達は当初からDと子の親子関係を確立させておきたいと思い、どうすれば良いか、弁護士に相談しました。
解決への流れ
弁護士に相談したところ、子とDの法律上の親子関係を確立させるためには、まずCと私の婚姻関係をどうするか、Dが子(胎児)を認知できるのか、また、すでに「永住者の配偶者」ではなくなっている私が、今後も日本に在留できるためには何をする必要があるのか等々、クリアしなければならない問題がたくさんあることがわかりました。また、私がA国人であることから、A国法がどうなっているかを見る必要もあるとのことで、最終目的を達成するには相当な時間がかかりそうな感じでしたが、依頼から1年数ヶ月で、無事に子とDの法律上の親子関係を確立することができ、私も引き続き日本に在留して、子やDとともに生活できるようになりました。Dと私だけではどうすればよいか全くわからなかったので、弁護士に依頼して本当に良かったと思います。
本件は、「永住者の配偶者等」の在留資格を持つA国人女性(相談者)が、日本人男性Cと婚姻関係にある間に、別の日本人男性Dの子を妊娠した、という事案です。民法722条1項は、「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。」と規定していますので、このままでは、子はCの子と推定され、Cの戸籍に記載されることになります。当時Dは既婚者でしたが、ゆくゆくは相談者と婚姻して子どもを育てていく予定でしたので、子がCの戸籍に記載されてしまうこと自体を避けたいというのが、相談者の一番のご要望でした。この場合、相談者とCが離婚しただけでは、子がCの戸籍に記載されることに変わりありませんので、別の方法を考える必要がありました。そこで、相談者とCが、実は偽装結婚であったため、Cにも協力してもらい、まず、相談者がCに対し「婚姻無効確認調停」を申し立てることにしました。当該調停の係属中、Dは役所に、子についての胎児認知届を提出しましたが、相談者とCがいまだ婚姻中のため、当然不受理となりました。ところで、平成11年11月11日民二・民五第2420号民事局第二課長、第五課長通知によれば、子の出生後、外国人母の前夫の嫡出推定を排除する裁判等が確定した旨の書面を添付して、不受理となった認知届を再度提出すれば、不受理処分が撤回され、当初の認知届の受付の日に届出の効力が生ずることとされています。相談者とCの婚姻無効は、すぐに23条審判により認められ、確定し、その後、子も生まれました。そこで、この確定した審判が、上記通知にいう「外国人母の前夫の嫡出推定を排除する裁判等」に含まれると考え、相談者とDは、審判の確定証明書と、子の出生届、そして一度不受理になった胎児認知届を役所に提出しに行きました。ところが、役所では、婚姻無効確認審判が、上記通知に言う「外国人母の前夫の嫡出推定を排除する裁判等」に含まれるか疑義がある、との理由で、受理してくれませんでした。また、A国の家族法上、婚姻無効確認から300日以内に生まれた子は、母の配偶者(旧配偶者)の子であるとの推定が及ぶと規定しており、相談者の子は未だにCの子であるとの推定が及ぶことになるから、その点が解消されない限り、出生届は受理できない、とも言われました。A国の家族法では、子の母が、その配偶者(旧配偶者)が子の父でないことを申し立てた場合、子の父は、子の父と母が登記機関に共同で申立てることによって確定されると規定しています。当方は、子の母である相談者と、実の父であるDが共に子の認知届、出生届をすることが、登記機関への共同の申立にあたり、Dの父性が確定することになると考え、そう主張したのですが、役所は懐疑的でした。そこで、再びCに協力を仰ぎ、子を申立人、Cを相手方とし、親子関係不存在確認調停を申し立てました。当該調停では、子とCのDNA鑑定の結果、Cの父性確率が0%と認められ、親子関係不存在を確認する審判が告知されました。その後相談者とDは、審判確定証明書と、不受理になっていた出生届及び胎児認知届を役所に提出し、数日後には子の戸籍が作成されましたまた、相談者のもう一つの懸念であった在留資格についてですが、「永住者の配偶者」の在留期限の数ヶ月前に、「定住者」の在留資格への変更申請もおこない、入管には、事実の経緯を申告するとともに、子の認知届及び出生届が受理される見込みについて、適宜報告書を提出しました。その結果、無事「定住者」の在留資格への変更が認められ、一件落着しました。